「不在の選挙」展 第六声
増山士郎
日本社会が日本の将来に大きな影響を与えうる、今回の参議院選挙の話題で盛り上がっている現在、北アイルランド在住の自分は、先に行われた英国のEU離脱投票によるEU離脱決定後の混乱のまっただ中、EUビザ更新中という直接投票結果が自分の将来に影響しかねないなんとも不運な状況に置かれている。
世界中のレジデンスを渡り歩きノマドに活動してきた自分が、ようやく定住する場所として選んだ北アイルランドのベルファストは、英国人とアイルランド人の争いが絶えることのない紛争地帯という特殊なコンテクストによる閉鎖的な社会で、溶け込むのに最も苦労した地だ。それも住めば都、早くも7年、気がつけばここの小さなアートシーンには、多くの友達もでき、北アイルランドの唯一の日本人アーティストとして地位も築かれ、やりたいことを好きなようにやらせてもらえる場所になっていた。
先日、北アイルランドでも英国のEU離脱の国民投票が開催された。目下英国の外人局にEUパートナービザ申請中の自分は、苦労して第二の故郷となったベルファストに残留できるかそれとも去らなければならないか、投票結果の直接的な影響を受ける英国での移民の自分には (EU離脱の英国国民投票より2ヶ月半前にビザ申請書を外人局に送る際、顧問弁護士は今回自分が北アイルランド(英国)でのEU VISAによる永住権が取れるだろうと言っていた。それが、英国EU離脱投票結果如何によっては自分のVISAの状況が一変し兼ねない状況だった。)苦しくも選挙権が与えられておらず、成り行きをかたずを飲んで見守るしかなかった。
周囲の地元のアート関係者の友達の9割はEU残留のキャンペーンに共感して投票に参加していて「士郎、おまえのために投票参加してくるよ」と、自分の将来がどうなるか不安な日々を過ごしている自分を励ましてくれた。それが、いざふたを空けてみると、自分の周囲の誰もが目を疑う予想だにしていなかったEU離脱決定という結果になってしまった。
そうして、一昨日英国の外人局から自分の携帯電話に1つのテキストメッセージが届いた。
「あなたは、もう英国に残留できないという記録があります。すぐにXXXXXまで連絡して下さい。あなたのケースについて話合いましょう。」
「・・・・・・?!」
予期せぬ突然のことに、取り乱しパニックになり、外人局と弁護士に電話した。
あろうことか、顧問弁護士のもとには三ヶ月前に外人局に送ったEUビザの永住権の申請書類と自分と自分のパートナーの二つのパスポートが返却されていたのである。
弁護士によれば、外人局は自分の銀行口座からビザ申請費用が引き出せなかったので、申請手続きを却下し書類を送り返したとのことだった。
何故そうなったのか考えてみた。5月末にプリペイド式携帯電話の電話料金をインターネットでチャージしようとした際、何者かにクレジットカード情報を盗まれる被害にあった。自分の銀行はその被害に気づいてカードを停止し新たなカードを再発行した。ビザ申請書に書かれたのは古いカード情報だったので、外人局は申請料金を引き出せなかったのである。
あぁ、運が悪いとは正にこのことかと思った。
携帯電話の電話料金をネットでチャージしてハッキングにあったことは今までに一度もなかったが、よりにもよって最悪のタイミングでの被害である。
EUビザ申請手続きには最低半年かかるが、英国EU離脱国民投票の三ヶ月前にビザ申請していた自分の申請書が、三ヶ月待たされた後に予期せぬインターネットハッカーによる被害のせいで却下された。
再度半年かけてEUビザ申請を最初からしなおさなければならないのが、よりにもよって英国国民投票によるEU離脱決定後という最悪の不運である。
弁護士は「心配するな、お前のビザは大丈夫だ」とか言うが、実際のところ自分のような英国でのEU法に基づいた移民の立場が、EU離脱決定後の英国でどうなるのか誰にもわからないのが本当のところだろうなと思った。
以前、リーマンショック後のアーティストとしての財政難を反映させた「アーティスト難民」というプロジェクトを実現したが、国家の政治的な都合で、突如自分の居住権を剥奪される危機にさらされている今の自分は、政治的な「難民」と変わらないなと思った。
国家の中での我々個人の存在なんて、そんな風に非力でちっぽけで、危ういものである。
それが、個人一人一人が声を上げることによって、個人の集合が意思を同じくする群衆の声をつくり、言い意味でも悪い意味でも国を変えうるのである。
昨今の日本の政治に不満を持ち、日本の将来を危惧する日本国民である自分は、一個人としての声をあげるため、日本国民証明書であるパスポートの英国での提出を余儀なくされる中、パスポート無しの「難民」状態で、国境を超え隣国のアイルランドに渡り、自分が「不在」の母国日本の「選挙」のために一票を投じるのである。
「不在の選挙」展も同様に、我々アーティスト一人一人が一個人では非力でも、まとまって声をあげることによって社会の中で、なんらかの影響を与える一石を投じることができればと願っている。
ベルファスト、北アイルランド、英国
2016年7月7日
増山士郎
増山士郎
日本社会が日本の将来に大きな影響を与えうる、今回の参議院選挙の話題で盛り上がっている現在、北アイルランド在住の自分は、先に行われた英国のEU離脱投票によるEU離脱決定後の混乱のまっただ中、EUビザ更新中という直接投票結果が自分の将来に影響しかねないなんとも不運な状況に置かれている。
世界中のレジデンスを渡り歩きノマドに活動してきた自分が、ようやく定住する場所として選んだ北アイルランドのベルファストは、英国人とアイルランド人の争いが絶えることのない紛争地帯という特殊なコンテクストによる閉鎖的な社会で、溶け込むのに最も苦労した地だ。それも住めば都、早くも7年、気がつけばここの小さなアートシーンには、多くの友達もでき、北アイルランドの唯一の日本人アーティストとして地位も築かれ、やりたいことを好きなようにやらせてもらえる場所になっていた。
先日、北アイルランドでも英国のEU離脱の国民投票が開催された。目下英国の外人局にEUパートナービザ申請中の自分は、苦労して第二の故郷となったベルファストに残留できるかそれとも去らなければならないか、投票結果の直接的な影響を受ける英国での移民の自分には (EU離脱の英国国民投票より2ヶ月半前にビザ申請書を外人局に送る際、顧問弁護士は今回自分が北アイルランド(英国)でのEU VISAによる永住権が取れるだろうと言っていた。それが、英国EU離脱投票結果如何によっては自分のVISAの状況が一変し兼ねない状況だった。)苦しくも選挙権が与えられておらず、成り行きをかたずを飲んで見守るしかなかった。
周囲の地元のアート関係者の友達の9割はEU残留のキャンペーンに共感して投票に参加していて「士郎、おまえのために投票参加してくるよ」と、自分の将来がどうなるか不安な日々を過ごしている自分を励ましてくれた。それが、いざふたを空けてみると、自分の周囲の誰もが目を疑う予想だにしていなかったEU離脱決定という結果になってしまった。
そうして、一昨日英国の外人局から自分の携帯電話に1つのテキストメッセージが届いた。
「あなたは、もう英国に残留できないという記録があります。すぐにXXXXXまで連絡して下さい。あなたのケースについて話合いましょう。」
「・・・・・・?!」
予期せぬ突然のことに、取り乱しパニックになり、外人局と弁護士に電話した。
あろうことか、顧問弁護士のもとには三ヶ月前に外人局に送ったEUビザの永住権の申請書類と自分と自分のパートナーの二つのパスポートが返却されていたのである。
弁護士によれば、外人局は自分の銀行口座からビザ申請費用が引き出せなかったので、申請手続きを却下し書類を送り返したとのことだった。
何故そうなったのか考えてみた。5月末にプリペイド式携帯電話の電話料金をインターネットでチャージしようとした際、何者かにクレジットカード情報を盗まれる被害にあった。自分の銀行はその被害に気づいてカードを停止し新たなカードを再発行した。ビザ申請書に書かれたのは古いカード情報だったので、外人局は申請料金を引き出せなかったのである。
あぁ、運が悪いとは正にこのことかと思った。
携帯電話の電話料金をネットでチャージしてハッキングにあったことは今までに一度もなかったが、よりにもよって最悪のタイミングでの被害である。
EUビザ申請手続きには最低半年かかるが、英国EU離脱国民投票の三ヶ月前にビザ申請していた自分の申請書が、三ヶ月待たされた後に予期せぬインターネットハッカーによる被害のせいで却下された。
再度半年かけてEUビザ申請を最初からしなおさなければならないのが、よりにもよって英国国民投票によるEU離脱決定後という最悪の不運である。
弁護士は「心配するな、お前のビザは大丈夫だ」とか言うが、実際のところ自分のような英国でのEU法に基づいた移民の立場が、EU離脱決定後の英国でどうなるのか誰にもわからないのが本当のところだろうなと思った。
以前、リーマンショック後のアーティストとしての財政難を反映させた「アーティスト難民」というプロジェクトを実現したが、国家の政治的な都合で、突如自分の居住権を剥奪される危機にさらされている今の自分は、政治的な「難民」と変わらないなと思った。
国家の中での我々個人の存在なんて、そんな風に非力でちっぽけで、危ういものである。
それが、個人一人一人が声を上げることによって、個人の集合が意思を同じくする群衆の声をつくり、言い意味でも悪い意味でも国を変えうるのである。
昨今の日本の政治に不満を持ち、日本の将来を危惧する日本国民である自分は、一個人としての声をあげるため、日本国民証明書であるパスポートの英国での提出を余儀なくされる中、パスポート無しの「難民」状態で、国境を超え隣国のアイルランドに渡り、自分が「不在」の母国日本の「選挙」のために一票を投じるのである。
「不在の選挙」展も同様に、我々アーティスト一人一人が一個人では非力でも、まとまって声をあげることによって社会の中で、なんらかの影響を与える一石を投じることができればと願っている。
ベルファスト、北アイルランド、英国
2016年7月7日
増山士郎